2012年9月23日日曜日

修行、始まりました

 
初体験の連続。

昨日は、野球中継の解説者として初めて、グラウンドに行きました。
野球の聖地、甲子園。その土の上を革靴で踏みしめるという違和感と緊張。
「やっぱりこの土の上は、選手だけのものなんや」ということを、
再認識した出来事でした。

選手としては、何度も立たせてもらった場所なのに、
立場が変わると、目線も変わります。
球団、選手、関係者、マスコミ。挨拶しなければいけない人が山ほどいるというのに、
とてもじゃないけど、回りきれませんでした。
きょろきょろしていたから、たぶん僕の目は、普段の1.5倍くらい見開かれていたと思います。
それでもなおかつ、伺い切れなかった方、
「俺に挨拶はないんかい」というお叱り、甘んじて受けます。スミマセン。

そんな時、頼りになるのはやっぱり同級生です。
同級生で、大学時代からの友人・阪神の片岡コーチが、ベンチ前で佇む僕を見つけて、
「おいでおいで」としてくれなかったら、僕はどこに行っていいやら、
さっぱりわからなかったことでしょう。何しろ、立ち位置がわからない。
どこを歩いていいやら、いけないやら。
ユニフォームを着ているだけで許された「自由通行」の贅沢を、
つくづく感じた次第です。

野球選手だったから、野球を全部知っているつもりになるのは危険、と、
我が家の鬼コーチは言います。上から目線で自分の知識を切り売りするのではなく、
マメに現場に足を運んで情報を集め、どんなに年下の選手にでも頭を下げて教えを乞える
解説者でいてほしいと。

僕はその言葉を肝に銘じてやっていくつもりです。
じゃないとたぶんご飯を作ってもらえません。

それにしても緊張しました。
人生初インタビューの相手が、金本さんですよ。
まわりは気軽に「同期やろ」と言いますが、年も上やし、
何より、あれだけの選手です。僕からしたら、憧れ見上げる存在の人。
その人間性の大きさそのままに、僕の拙いインタビューを、
誠実に、そしてユーモアたっぷりに受けてくださいました。
サインもらったろかと思いましたよ。よう言わんかったけど。

インタビューって、難しい。
番組を製作する側が聞き出したいこと、
視聴者が聞きたいこと、知りたいこと、
そして、選手本人が言いたいこと、言いたくないこと。
たくさんの思惑が絡み合う中、どんなふうにリラックスした
雰囲気を作って、適切な言葉で相手の本音を引き出すか。

引退したら、いろんなことから開放されてちょっとは気楽になるなんて、
一体誰が言ったんでしょう。
気楽どころか勉強することが多すぎて、僕は毎日家の机に資料を広げ、
うーうー、うなっています。

昨日の放送では「押しも押されもせぬ」を「押しも押されぬ」と
言ってしまったわたくし。資料の「間違えやすい例」を読めば読むほど
間違えているほうを覚えてしまいそう。









2012年9月12日水曜日

ここから

 
秋の気配ですね。皆様お元気でお過ごしでしょうか?
我が家では、夏の間に家族になったカブトムシ三匹のうち、
メスの「かぶちゃん」が天に還り、そのあと、たくさんの幼虫たちが、
土の中で待機しているのが見つかりました。
サークル・オブ・ライフ。でも、動かなくなったカブトムシに、
自分を重ねてしまったわけではありません。


僕はおととい、引退記者会見を行いました。
もういちどユニフォームを着てグラウンドに立ちたいと願っていましたが、
力が及びませんでした。
復活を信じ、応援してくださった皆さんには本当に申し訳ない限りです。
この九ヶ月の間、皆さんにいただいた励ましは、選手としての僕ではなく、
新しい世界に踏み出す僕の、大いなる力とさせていただきます。
選手としての20年と、浪人の1年弱。皆さんのおかげでこんなにも長く、
野球を続けさせていただくことができました。


本当に、ありがとうございました。

 
ホンマは、めっちゃ悔しい。そして寂しい。
かっこいい引き際なんて、誰が決めるんでしょうね。
かっこ悪くてもええやん。泣き喚いて、ぼろぼろになって、鼻水垂らしても、
しがみついたらええやん。


しかし、しがみつくところが、なかった。ザンネン!


それにしても、引退。この二文字は、考えていた以上に重く険しいものです。
現実味なく口にしていた時にはなかった、切迫感。緊迫感。動悸、息切れ、みたいな感覚。
会見に向かう五分前に、「泣くぞ」とまわりからからかわれたときも、
「俺、もうすっきりしてるもん。泣かへんって!」と言ってたくせに、
冒頭でいきなりアレですよ。

隣では、ホリプロの堀社長がつられて号泣しそうになっていらしたのですが、
もし堀社長がこらえ切れなかったら、翌日の新聞の見出しは、
スポーツ面の「田口引退」ではなく、芸能面で「堀社長号泣」だったことでしょう。
そんな思い出に残る会見を用意してくださったホリプロにも、感謝の気持ちでいっぱいです。

 
さあ、これからが大切。
解説をすることが決まった時、ヨメがにっこりと言いました。
「もと野球選手だから、野球のことは何でも知ってる、なんて言って、
取材もせずに解説しないでね」


厳しい、厳しい人生の再スタートです。